トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

タイム・トラブル?

「タイム・トラブル?」10

あれから、田中さんは順調に年を遡っている。 三十歳、二十歳、十五歳……そして今は、のらくろ二等兵に夢中の小学生だ。 この間、お誕生会の時に、俺は田中さんに白バイのおもちゃをプレゼントした。田中さんは目を細めて喜んだ。その姿はまるで、幼子のよう…

「タイム・トラブル?」9

「――!!」 間違いない―。事件発生の日だ。 俺は、ごくりと唾を呑み込んだ。 「じ、じゃあ奪った金は、三億円はどうしたんですか?」 田中さんはしばらく考えていたが、やがて思い出したように言った。 「そうそう。すごい大騒ぎになったので、ほとぼりが冷…

「タイム・トラブル?」8

俺の顔はおそらく青くなっていたに違いない。 頭の中には、最近見たテレビ番組がぐるぐる回っていた。 それは、今から四十四年前に起きた三億円事件を取材したものだった。 白バイ警官に扮した男が、まんまと大手電機メーカーのボーナス約三億円を、府中刑務…

「タイム・トラブル?」7

「好きだね。単車はやっぱりカッコいいよ」 その調子が妙に優しかったので、俺は笑った。 「そうですか。どんな単車が好きなんですか?」 「どんなって……やっぱり男は白バイだろう?」 「白バイ?」 「ああ、俺は白バイを作ったこともあるんだぜ」 得意そう…

「タイム・トラブル?」6

それからしばらく田中さんとは顔を合わせなかった。 別の系列の施設へと研修に行かされていたのだった。 ようやく田中さんとまた散歩に出られるようになったのは、年末も押し迫った、ある寒い日の事だった。 その日は朝からちらちらと粉雪が舞っていたが、お…

「タイム・トラブル?」5

しかし、それをきっかけとして田中さんは少しずつ記憶を取りもどしていった。もちろん、取りもどすと言っても、認知症の場合は時間だけが遡り、記憶が若返るだけなのだが……。 ある時、俺が田中さんに年を尋ねると、 「俺か? 俺は62」と言った。 田中さん…

「タイム・トラブル?」4

その日、俺たちはいつものように中庭へ来ていた。 木陰で、車椅子を停めて休んでいると、近くで鳥がバタバタと羽音を立てながら飛んでいくのが見えた。 しばらくその様子を見ていた田中さんだったが、突然その両目から涙がこぼれた。俺は驚いて尋ねた。 「田…

「タイム・トラブル?」3

俺は天気のいい日にはよく、田中さんを車椅子に乗せて施設内の庭を散歩した。 そんな時でも田中さんは無表情だった。 嬉しいんだか、悲しいんだか、その表情からは読み取れない。 一般に認知症のお年寄りは治らない。 治らないけれど、過去に自分の馴染みの…

「タイム・トラブル?」2

そんな中、一人気になるじいさんが居た。 田中さん。 田中さんは認知症がかなり進んでいるようで、俺が最初に挨拶したときには、胸の前で手をギュッと合わせて「小僧、お前も俺の金目当てで来たのかッ!」と睨みつけられた。 俺はギョッとなったが、先輩の河…

「タイム・トラブル?」1

俺がこの老人ホームへ採用されたのは、ほんの半年前のこと、福祉系の専門学校を卒業してすぐだった。 元々おばあちゃん子だったので、老人の扱いには慣れている―と思っていたが、そんな俺の小さなプライドなんて、現場へ出ると粉々になった。 とにかく忙しい…