僕が近づいていくと、ユーリがランプを掲げた。
「遅いよ」とユーリは口をとがらせた。
僕の周りが一気に明るくなった。
「ごめん、ごめん。父さんがなかなか出掛けなくて」
と僕は謝った。
父のミカイルは、普段は物静かな農夫だった。
けれど、年に一度の収穫祭には、
明るい顔で、新品の服を着て出かけるのだ。
それはひとえに〝ジェニィ〟に会いたいがためだったが…。
けれど、今年はどういう訳か、広場へ行き渋っていた。
それはひとえに〝赤紙〟の事があったからかもしれなかったが―。
赤紙―。
それは僕たちの世界の希望の星。この世に〝ジェニィ〟を増やすための政府が立てた方策だった。
けれど、それは誰に来るのか分からない。
レニングラードにある中央政府の巨大なコンピューターに記録された、この国全員分のデータの中から、ランダムに選ばれるのだ。
それはある日突然やってくるらしい。
中央政府から派遣されたお役人が、家のドアをノックする。
そして赤い紙を差し出して、「おめでとうございます」と言うと、
家の人は、「ありがとうございます」と頭を下げなければならない。
そういう決まりになっているのだ。
何せ、赤紙を貰う人は、この世界を救う救世主なのだ。
だから、恭しくいただかなければならないと、担任のザハール先生はそう言った。
僕たちのクラスは騒然となった。
だって、その2、3日前から、どうやらこの村にも〝赤紙〟がやってきたようだと噂になっていたからだ。
みんな疑心暗鬼になっていたのだ。
〝誰が赤紙を貰ったのだろう〟と。
「お前か?」
「いや、お前か?」
と。
友達同士で集まると、すぐにその話になった。
そして、どういう訳か、あのいつも元気な暴れん坊のアレクセイが、静かなのだ。
それが僕には気になった。
もしかして…アレクセイに赤紙が―?
そんな想像もするのだった。
つづく

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