僕たちは、暗闇の中、マザーのいる、光の塔を目指して駆けだした。
駆けだした―と言うのは、簡単だが、
塔までの道は辺り一面草原で、腰辺りまでの伸びた草の中を、突っ切っていかねばならず、
とても走りづらかった。
ユーリと僕は、その草を、掻き分け掻き分け進んでゆき、ザザッ、ザザッという音だけが聞こえていた。
幸いにして、こんな状態でも、目標物が目立つので分かった。
光の塔は、遠くの方でも輝いて、まばゆいばかりだったからだ。
僕たちはただ、あのガラスの塔へ向かって走っていけばいいだけだった。
マザーのいる光の塔は、人類の秘密だ。
ロシアでも北極海に近いこの寂れたミンスク村で、世界でも重要な〝マザー〟が保管されているなんて、おそらくこの村の者以外では誰もしらないだろう。
否、この村の者だって、知っている人はそうそう居ないだろう。
僕がその秘密を知ったのは、ユーリと知り合ってからだ。
ユーリの父、セルゲイは、マザーの居る光の塔の責任者だった。
彼はマザーが快適に過ごせるように、その管理を任させているのだ。
光の塔に携わる者たちは、この村ではエリートだった。
村外から来るし、決して村の者とは交わろうとはしない。
それは彼らが秘密を抱えているからだった。
そして、短期のうちにその役目を終えて移動する者が多かったため、
結局は、気づけば、誰がいたのかも分からないくらいだった。
けれど、ユーリの父、セルゲイは違った。
彼はフレンドリーな性格で、積極的に村人たちに溶け込もうとした。
村に一軒だけあるバーにも立ち寄って、よく男たちと陽気に騒ぐ姿も
目撃されていたのだ。
しかし、それでも光の塔の話題になると口をつぐむのが常だったが。
だからこの村に住む僕らも、実は光の塔についてはよく知らないのだ。
つづく