トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

「マザーを探して」9

僕たちは、真っ暗な中を進んで行った。

暗い草むらはまるで蛇のように、僕の体にまといつき、動きを止めようとする。

 

けれど、先を走るユーリが、勇者ペルセウスのように、

そのすべてを払いのけてくれた。

 

片手でランプを持ちながら、もう片方の手で、草をなぎ倒していくユーリの姿は、頼もしかった。

 

僕はただ、その後ろ姿を追いかけるだけで良かったのだ。

 

ユーリの背中を羨望の眼差しで見つめていた僕は、

「あっ!」と叫んで、草むらへ転がった。

足を草に取られて倒れてしまったのだ。

 

すぐにユーリが気づいて、引き返してきた。

「大丈夫か、キリル?」

 

ユーリはランプをかざしながら、僕に手を差し伸べてくれた。

そのユーリの心配そうな表情、青々と光る深淵な瞳を見た時、

僕には、ある光景がよみがえって来た。

 

それは、まだアレクセイの奴隷だった時だ。

 

都会から来た転校生に夢中なアレクセイは、なんとかユーリの気を引こうと、

放課後、一緒に帰ったんだっけ。

 

彼の家とは反対方向だったのに……。

 

僕は、アレクセイのカバンを持たされて、二人の後をついて行ったんだ。

 

アレクセイはしきりにユーリに話しかけていたけれど、

ユーリは、僕の方をチラチラ何度も振り返り、

「ねぇ、大丈夫なの? 彼」と聞いたものだった。

 

その度にアレクセイは、

「大丈夫、大丈夫。キリルは俺の事が好きで、毎日、カバンを運んでくれているんだよ」

と言った。

 

そうして、

「そうだ。ユーリも持って貰えばいいよ。そうしなよ、楽だよ」と、無理にユーリのカバンをひったくった。

 

そしても僕の方へ振り返り、「な、いいよな、キリル」とすごむと、僕の両腕にユーリのカバンを乗せた。

 

ユーリのカバンは、ピカピカの本革で出来ていた。

 

ただでさえ、アレクセイの重たいカバンを両腕に抱えていた僕は、そのずっしりした重さに耐えきれず、

 

その場で尻もちをついてしまった。

 

それを見たアレクセイは、声高に笑った。

「なんだ、もう音を上げたのか〝弱虫キリル〟」

そう言って、あろうことか、僕の背中を足で蹴ったのだ。

 

砂埃が舞い上がり、僕の目にはいった。

 

僕は泣きたい気持ちで、少し咳き込みながら、

「ごめんよ、ごめんよ……」と謝っていた。

 

ユーリはそんな様子をみながら、僕に近づいた。

そうして、片手を差し出したのだ。

 

「・・・・・・」

 

僕は、こんなに親切にされたことがなかったので、戸惑った。

 

いつもなら、学校でアレクセイにいじめられ、クラスメートからも仲間外れにされている僕なのだ。

 

けれど、ユーリは違った。ユーリだけは違ったんだ。そんな僕に優しかったのだ。

 

僕は思わずユーリの手を取った。

 

ユーリは僕を立たせると、こう耳元でささやいた。

 

「ねぇ、君は本当にこんな事、いいと思ってるの?」

 

そうして、僕の瞳をじっと見つめた。

あの深い、深い、エメラルドブルーの目で―。

 

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つづく

 

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