僕はその目に吸い込まれそうになりながら、
「う、ううん」と小さく首を振りながら、目には涙が浮かんできた。
「嫌だ。こんなことしたくない」
と言ったのだ。
それを聞くと自分でもびっくりした。
僕がこんな事を言うなんて……。
学校で一番、馬鹿にされている僕が、こんな事を思うなんて……。
それを聞くと、ユーリはにっと小さく笑った。
そして、
「じゃあ、一、二の三で、逃げるよ」と言ったのだ。
ユーリは僕の腕から、自分の頑丈なカバンを取り出すと、
「一、二の三!」
そう言ったかと思うと、カバンをそのまま勢いよく両手で後ろへ振り回した。
「ギャッ!」
カバンの角がアレクセイの顎に当たって、地面にうずくまった。
「逃げるよ、キリル!」
ユーリが叫んだ。
僕は、倒れたアレクセイとユーリを交互に見ながら、
どうしていいのか分からなかったけれど、
ユーリの「早くッ!」という言葉に促されて、思わず走り出した。
その場にアレクセイのカバンを地面に置いて―。
ちらりと後ろを振り返ると、アレクセイは、まだ唸りながら、地面を転げ回っていた。
しばらく村の一本道を二人で息が切れるまで、走って、走って―。
もうさすがのアレクセイでも追ってこれないだろうという所まで来た時に、
二人で立ち止まった。
こんな風に思いっきり走ったのは久しぶりだった。
二人ではあはあ息をついていると、なんだか笑えてきた。
笑って、笑って、そうしていると、ユーリが言った。
「なーんだ、やるじゃん!〝弱虫キリル〟」
そこには少し小馬鹿にしたような響きがあった。
だから僕も言い返してやったんだ。
「お前もな、〝赤毛のユーリ〟」
そうして、僕たちは親友になったのだ。
それ以来、僕はアレクセイにいじめられなくなった。
僕の側にはいつもユーリが居てくれたし、第一、翌日登校してきたアレクセイの鼻に、
大きな絆創膏が貼られているのを見たら、誰も僕たちに近づこうとはしなくなったのだ。
だから僕たちは実質、学校で一番の〝実力者〟になったんだ。
つづく