トナリのサイコパス

どこにでもいるヤバイ奴。そうあなたの隣にも―。さて、今宵あなたの下へ訪れるサイコパスは―?

「レンゲの花の咲く頃に」9

ある日、幼稚園の庭で、翔くんはミカちゃんという女の子に水を掛けられました。

ミカちゃんは体の大きな女の子で、いじめっ子でした。

力が強いので、何人もの子が泣かされていたのです。

 

怒った翔くんが「待てーッ!」と追いかけると、ミカちゃんは笑いながら、庭の隅の用具入れの方へと逃げていきました。

 

翔くんが追いつくと、ミカちゃんは嬉しそうに声を上げ、翔くんの腕をぐいと引っ張りました。

翔くんはバランスを崩して、瞬く(またたく)間に用具入れの裏に引きずり込まれました。

 

倒れ込んだ翔くんが驚いて見ると、ミカちゃんが笑いながら、

 

「ああ・・・…翔くん、ようやくこの世界に戻ってきたのね」と言いました。

 

そこには、いつものいじわるそうなミカちゃんではなく、まるで大人の女の人みたいに威厳があり、全体を見通すかのような眼差しで立っているのでした。

心なしか喋り方も先生のようでした。

 

「どういうこと?」

 

翔くんが訝しがると、ミカちゃんは「しっ!」と唇に指を当て辺りを見渡すと、急に小声になり、

 

「子どもはね、みんな、この世とあの世を彷徨(さまよ)っているのよ。そして七歳になるまでには、どちらで生きるのかを決めるの。翔くんはずっとこの世が嫌いだったみたいだから、ミカは心配していたのよ」と、耳元で囁きました。

 

あまりの事に、翔くんが口も利けないでいると、

 

「でも良かった! この世にいることにして」

 

ミカちゃんはホッとしたような表情になりました。

 

「隣町のマサオくん、あの子もそうだったの。ずっとこの世になじめなくて……。だから神様に元の世界へ帰してって、毎晩お願いしていたのよ」

 

「――!?」

 

「それで、ようやく念願叶って、先週お空へ還ってしまったの」

 

「……」

 

翔くんの記憶が微かに呼び覚まされてきました。

 

神さまとした約束のこと。お空の上から悲しんでいるママとパパを見たこと。

そして、ボクがあの人たちの子どもとなって、力になってあげたい、人間として生きたいと思ったことなど。

 

翔くんが記憶の糸をまさぐっていると、ふと自分を見つめるミカちゃんと目が合いました。翔くんにはその瞳に見覚えがありました。

 

どこだろう……? ええと、そうだ! あの時だ!

 

ミカちゃんは、翔くんが地上へ下りるとき、一緒に後ろの方に並んでいた魂でした。そして隣の列には、今にも泣きだしそうな男の子の魂も――。

 

そして、ポヨポヨ――。

 

困ったとき、退屈なとき、寂しくて泣いていたときに、いつも側にいて慰めてくれたポヨポヨ・・・・・・。

 

彼は神さまの使いだったのです。翔くんが地上にいても、悲しくないように、神様が使わしてくれたのです。いつも側にいてくれたのです。

 

そんなことが一気に思い出されてきたのでした。

 

突然、「キャーッ!」という悲鳴がして、翔くんがハッと我に返ると、そこには泡を食ったような担任の先生の顔がありました。

 

そして足元を見ると、ミカちゃんが気を失って倒れているのでした。

 

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つづく