オノの話では、どうも秋口ぐらいから、ニャン太がそのメス猫を追いかける姿を度々目撃したということだった。
その猫は、どこかの飼い猫らしく、首輪もついているそうだが、ついにお腹が大きくなり、先ごろオノ家の縁側の下で子猫を産み落としてしまったらしい。
その子猫たちが、毎日ニャーニャー鳴いて困っているので、それを引き取って欲しいということだった。
「……」
俄かには信じられない話で、ナナコは困惑していた。第一、それがウチのニャン太の子どもかどうかわからないではないか?
そして、もしそうだとしても、何故ウチが引き取らなければならないのだ。メス猫側の飼い主はどうした? メス猫側は? そんな所へ産み落としたカノジョらにも責任があるのではないか?
などとナナコが混乱して押し黙っていると、オノは、疑われたと思ったのか、
「お宅の猫ちゃんにそっくりなんですよ、その子猫たち!」と声を荒げた。
「……」
仕方なくナナコは、オノに先導されて、その子猫たちを見に行くことになった。オノ家に到着して、しぶしぶその縁側を覗いてみると、そこには、四匹の子猫たちがうごめいていた。小さな体でニャーニャー鳴いているのだが―。
「えっ!?」
とナナコは驚いた。
いかんせん、それはニャン太には似ていなかった。
ニャン太は、茶色のトラ猫で、しっぽは根元から断ち切られたように短かった。だが、その子猫たちの尻尾は長く、白茶のブチだった。そこに黒が混ざっているものもいる。白黒もいる。
「……」
ナナコは絶句して、「メス猫の色は何色ですか?」とオノに尋ねた。
オノは、首をひねるようにして、
「そうねぇ、メスは確か、三毛猫だったと思うわ」と言う。
全然違うやないの! とナナコは思わず突っ込みを入れたくなった。
「すみません、ウチの猫は、茶トラなんで、この子たちの親じゃないと思います」と言った。
「え? そ、そうなの? てっきりお宅の猫ちゃんだと思って。ごめんなさい」
オノはそう言って謝ったものの、なんだか釈然としない顔つきだった。
誤解だということがわかり、ホッと胸を撫で下ろしたナナコだが、しかし、ニャン太をこのまま野放しにしていれば、またいつか、同じようなことが起きないとも限らない。
まだまだ子どもだとばかり思っていたニャン太も、もう一年が過ぎ、立派なオス猫になっていた。そう考えると、今まで避けてきた話題を持ち出さない訳にはいかなかった。
それは“避妊手術をするかどうか?”ということだった。
つづく
パモン堂新作💛