その後ろ姿を見ているうちにナナコは決意した。
今日こそはなんとしてもドライブに行くのだ。
何がなんでも。
もうリョーヘイの都合ばかりに合わせてはいられない。
「……」
ツカツカと光りの射さない寝室へ足音高く入ったナナコは、寝ているリョーヘイの布団を剥ぎ取った。
そして、身体を思いきり揺さぶった。
「起きろッ! 起きろ。今日は出掛ける約束でしょ? みんなもう待っているんだよ。お弁当も出来ているんだよ。あとはリョーヘイだけなんだよッ!」
しかし、「う、う〜ん」と言ったきり、リョーヘイは目を覚まさない。
それが更にナナコの怒りに火をつけた。
「コラッ! いい加減にしろッ! 早く起きろ、起きろッたら!」
そう言いながら、今度は剥き出しになったリョーヘイの身体を叩き始めた。
寝ぼけながら、痛い、痛いと呻いたリョーヘイは、「んもう、うるさい」と一言言うと、また布団を頭から被った。
「—!!」
それを見たナナコは、こいつ、また約束を破る気だと思った。
ナナコの胸には、行く行くと言いながら何度も約束を破られ、仕方なく、作った弁当を虚しくゴミ箱に捨てた苦い思い出が甦ってきた。
もう許せない。ここまでバカにされたら、許してはおけないと思った。
「……」
すっくと立ち上がったナナコは、いきなりリョーヘイの身体を足で踏みつけた。
「起きろ、起きろ、起きやがれッ!」
もちろん加減はしたつもりだった。だが、リョーヘイはウンともスンとも言わなかった。
ただ黙って蹴られるままだった。それがナナコには余計に不気味だった。
何とか言ったらどうなんだ、こんなにされてもまだ何も感じないのか、そんな気持ちだった。
つづく